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広島高等裁判所 昭和25年(う)246号 判決 1950年11月29日

被告人

近藤音松

主文

原判決を破棄する。

本件を広島地方裁判所呉支部に差し戻す。

理由

弁護人吾野金一郎の控訴趣意第二点について。

原判決は「被告人は昭和二十四年十月十七日呉市仁方町字一本松小早川アサ子方に行き、同女方に備附けてあつた姿見鏡一個外動産七点(時価合計六万八千五百円位)を鎌を以て損壊したものである」と判示し、右損壊された物件が誰の所有に属するものであるかは之を示していない。而して原審が被告人の本件所為に適用している刑法第二百六十一条の毀棄罪が成立するためには損壊の対象が他人の所有物であることを要することはまことに所論の通りである。何となれば同条の条文自体には「他人の物」という文言はないけれども、それは同条が第二百五十八条乃至第二百六十条を受けて前三条に記載したる以外の物」という表現を用いその前三条中第二百五十八条は他人の所有と自己の所有とを区別していないので、自然第二百六十一条にも「他人の所有」という文詞を用いなかつた丈けのことであつて矢張り第二百六十一条は他人の所有物に対することを要件としていることは第二百六十二条との関係上明らかなところであるからである。従つて刑法第二百六十一条の毀棄罪に該当する事実を判示するには、それが他人の所有に属する物に対する毀棄行為である旨を明示しなければ犯罪構成要件の表示に欠くるところがあるものと云わねばならない。即ち原判決はその理由に不備があることとなり、この点の論旨は理由がある。

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